あの年、僕らのポケットにはみんな、小さな香水工場が隠されていた
ある特定の時空にしか存在しないモノがある。それは期間限定イベントのレアアイテムのようなもので、一度逃せば二度とドロップしない。「香り玉」、それは私の子供時代というゲームバージョンにおける、もはや絶版となった伝説の装備だ。
初めてそれを見たのは、学校のそばにある魔法に満ちた文房具屋だった。カウンターの上には、コルク栓で封印された透明な小瓶が並び、蛍光灯の下でキラキラと輝いていた。それぞれの瓶には、米粒大の単色の粒が詰まっている。神秘的な紫、快活な黄色、夢のようなピンク。色によって、それぞれ違う香りが封じ込められていた。
一瓶たしか5元か10元(約20〜40円)だったと思う。私は無意識に制服のポケットを探った。そこにあった丁度足りるだけの小銭は、まるでこの出会いのために用意されていたかのようだった。店のおばちゃんが試しに嗅がせてくれて、コルク栓を抜いた瞬間、少し人工的だけれど妙に魅惑的な香りが鼻腔をくすぐった。その時私は悟ったのだ。ポケットの中の小銭たちの使命が、今ようやく見つかったのだと。

見るからに頭痛がしそうな匂いだね。
半分の信仰:これはプラスチックの粒じゃない、自信が具現化したものだ
「これ一体何に使うの?」と聞かれるかもしれない。答えは、「何の役にも立たないが、何でもできる」だ。
単純すぎて少し馬鹿げていたあの時代、「香り玉」は小学生にとってのトレンドアイテムだった。それはまるでパッシブスキルのようなもので、装備さえすれば、すべてのステータスが自動的に上昇するのだ。
今の私の半分は、「超アホらしい」と思っている。だが、もう半分の私は、あの無比なるリアルな感覚をはっきりと覚えている。筆箱を開けた時、隅っこに香り玉が数粒転がっているだけで、その神秘的な香りが文房具たちに魔法をかけ、神聖なオーラを纏わせるのだ。自分の気品が、一瞬にしてワンランクアップする。朝礼の前に、こっそり数粒を制服のポケットに忍ばせる。校庭へ向かう道すがら、歩くたびに漂うほのかな香りは、自分がランウェイのモデルになったかのような錯覚を与えてくれる。どんな歩き方でも、まるでモデルウォークのように思えてくるのだ。
それはつまり、小学生版の「自信構築装置」だった。言葉も、成績もいらない。ただその独特な匂いを身に纏っているだけで、君は特別な存在になれたのだ。
ハハ、試験の時もいくつか持ち歩いてたよ。その匂いでIQが上がる気がしてさ。
AduのIQなら、何箱も持ち歩かないと足りないだろ。

もう半分の災難:好奇心が引き起こした真空吸引事故
手に入れたばかりの自信を胸に、私は意気揚々と家に帰り、妹に自慢した。「おい見てくれ、これ超いい匂いだぞ、嗅いでみろよ!」私は宝物を献上する宣教師のように、その神聖な小瓶を彼女の目の前に差し出した。
妹は好奇心いっぱいに瓶を受け取り、そして……瓶の口を自分の鼻の穴にぴったりと押し当て、思いっきり吸い込んだ。
「『嗅げ』って言ったんだよ!『嗅ぐ』んだ!鼻で食えとは言ってない!」私はその場で凍りついた。瓶の口と鼻の穴が完璧に密着していたため、その瞬間、彼女の鼻腔内部には完璧な真空環境が形成されたのだ。そして彼女は、業務用の掃除機に匹敵する吸引力で、瓶の中のカラフルな香り玉を数粒、身体の未知なる領域へと吸い込んでしまった。
それらの香り玉は、彼女の鼻腔のどこか名もなき片隅に引っかかり、異次元へと消え去った。どれだけ強く咳をしても、鼻をかんでも、それらを召喚し戻すことはできなかった。幸いなことに、妹は最終的に無事立派に成長した。彼女本人の回想によると、その後の数日間、彼女は何を嗅いでも「香り玉フィルター」がかかっていて、お母さんが焦がした料理さえもいい匂いに感じたそうだ。


ハハハ、僕らよく生き残れたよね。子供の頃は本当に何でも食べ、舐め、吸い込んでた。キラキラしてて、いい匂いがすれば、口に入れたくなるんだよ。
二度と取り戻せないのは、たった5元で幸せを買えたあの頃の自分
今思い返しても、不思議でならない。子供の頃の僕たちは本当に単純で、たった数円のガラクタ一つで、堂々と自信を持ち、一日中幸せでいられたのだ。
大人になった今の環境は複雑すぎる。世界に対抗するための「心の防壁」を築くには、より多くの癒やしグッズ、より高価なセミナー、より分厚い本が必要だ。傷つけば、あれを買ったり、これを学んだり、継ぎ接ぎだらけの修理をして、なんとか自分を直そうとする。
だが、どんなに繕っても、二度と取り戻せない気がするのだ。あの小さな香り玉一瓶だけで、全世界を手に入れたような気分になれた、あの純真な自分だけは。
子供の頃、幸せのコストはとても低かった。大人になると、平穏を維持するコストは高くつく。僕らはますます高価なモノで、ますます大きくなる心の穴を埋めようとしているんだ。